経済一般

○湯本雅士(2023)『新・金融政策入門』岩波新書
【中級。忍耐強く、かつ2回読みたい】

 日本銀行の中に在籍したことがある著者ですが、できるだけ公平に配慮して書かれた本です。最初の方では「このことについては後述します」が多く出てくる(対象となるページも付記)ので、できれば2度読むことをお勧めします。
 本書は大きく「基礎編」と「政策編」に分かれます。
 「基礎編」では金融政策の定義と財政政策と不可分であることについて述べられています。
 「政策編」ではFRB、ECB、イングランド銀行と日本銀行のこれまでの金融政策を紐解きます。
 「政策編」が2023年3月までの政策を扱っているので、日本銀行のゼロ金利緩和に直面する現在のうち読んでおくことが必要だと思いました。(2024/04/21)

○クリス・ミラー著、千葉敏生訳(2023)『半導体戦争』ダイヤモンド社
【初級。半導体の歴史が分かる】

 半導体の黎明期から2022年に至るまでの、アメリカ視点で見た半導体の歴史を綴った本です。もちろんターニングポイントで技術的な話もあり、どのような衝撃があったかを知ることもできます。日本との壮絶な半導体戦争の後、水平分業が進んでおり、現在のビジネスモデルが一国主義で完結できないことも説明しています。この点は下の2冊の指摘と同様です。半導体の歴史を知ることで現在の最先端がどうなっているか、地政学リスクってどんなもんだろうということが分かります。半導体関連の書評は以上です。(2024/02/03)

○湯之上隆(2023)『半導体有事』文春新書
【初級。細かいことにはこだわらず読むと面白い】

 簡単に結論を言うと、「半導体ビジネスは、洋の東西を問わずサプライチェーンができちゃっているから戦争なんか止めて人類の発展のために平和な環境で協業しよう」です。
 技術的には専門家として詳しく簡単に解説しているので高乗(2022)を読んでから本書を読むと理解しやすいでしょう。
 ただし、本書で著者が述べたいところは、著者の希望的観測がちりばめられているので、要注意です。うす~い半導体ビジネスの政治経済本だと思います。
 現在でも続いているロシアとウクライナの戦争についても、半導体ビジネスに必要な素材を両国から調達していることを指摘し、半導体製造には多くの国・企業が危うい均衡で成り立っていることから、地政学的な問題を解消するために、半導体製造の内製化なんてできっこないと主張しています。
 繰り返しになりますが、フィーリングでは同意できる箇所があるので、細かいことは気にせず著者の主張を確認すると面白い本だと思います。
 半導体関連は、あと1冊あります。(2024/01/18)

○高乗正行(2022)『ビジネス教養としての半導体』幻冬舎
【初級。半導体って何だっけのとっかかりにいい本】

 株式投資をすると避けることができない半導体株(私だけ?)ですが、そもそも半導体って何かしらを初歩から教えてくれる本です。初級なのでフンワリ柔らかな解説なので、より詳細は他書に譲るって感じですが、半導体の工程、歴史、今後の展望について書かれています。しばらく半導体関連が続きます。(2024/01/14)

○浜田宏一(2021)『21世紀の経済政策』KODANSHA
【中級。マクロ経済学の理解がないと難しい←分かると楽しい】

 アベノミクスはうまくいったと評価しています。まっ、正社員の流動化が進んでいない現状では成功とは言えないし、非常勤が増えただけでもより貧困・社会保障費が増えなくて良かったという論理は、単純に無責任だと思います。
 さて、本書は、特に金融政策に着目し、政府や日銀は「利害関係」から正しい政策ができないのか、もしくは単純に「無知」で失敗しているのか、という問題意識の元、89人の経済学者や政治学者等と対話形式やレター形式で議論を繰り広げています。
 結論はさておき、回答の中には財政政策を絡めたり、流動性の罠(金利が0に近づくほど金融政策は効果がなくなること)、マンデル=フレミングの法則(変動相場制では、金融政策が有効)、消費税の増税の是非等89通りの回答が出そろいます。まさに100人の経済学者がいれば、100通りの経済対策があるってことですね。
 初見では、だらだらみんなの意見が書いてある、600ページを越える分厚いだけの本。だったんですが、2回目読むといろんな考え方が見えてとても面白かったです。ひねくれ者の私は、著者の意見に同意しない人の意見が特に面白かったです(と言ってもその人の意見とは違うことがありますけどね)。確かにどちらかと言えば、著者の意見に近い人物がセレクトされているみたいですが、そういう指摘をする人は、正々堂々議論してほしかったと思います。
 タイトルは、本書がデフレを前提としているので、今後予想されるインフレが発生した場合、単純にデフレ対策の逆の政策をすればよいとは思えないので、「21世紀の」は言い過ぎかと思います。せいぜい「デフレ下の」ぐらいかな?ただ、それなりに実績を積んだ研究者の発言なので内容は、面白いです。マクロ経済学の知識があれば、インフレを迎えつつある今読むといい本だと思いました。(2022/07/25)

○日本経済新聞社編(2022)『戦後日本経済史』日経文庫
【初級。とあるトピックから現在への経済の流れを読むことができます】

 2014年に刊行した『日経プレミアシリーズ 日本経済を変えた戦後67の転機』を改題して、少々加筆して文庫にしたためたものです。原著通り時代の古い順から、戦後日本におきた67つの事象を現在に向けて解説しています。年表形式ではないので、気になるトピックを読んで現在(おおむね2014年)の位置を知ることができます。最後の事象は1997年の「北海道拓殖銀行の破綻」です。なので戦後から2000年ぐらいまでの事象を取り上げていると思っていいです。最後に補筆として、その後新型コロナまでを一連の文章として書かれています。
 年表があったらいいのになぁ~と思いましたが、それは目次で我慢するとして、危機に直面したときどう対処してきたかがよく分かる本です。そして読めば読むほど現在の日本のような場当たり的な対処から抜本的な、そしてみんなが痛みを分け合う制度改革の必要性を感じました。
(2022/07/04)

○真壁昭夫(2021)『ゲームチェンジ日本』MdN新書
【初級。現在の日本が置かれた状況を明らかにし、ゲームチェンジのための政策提言を行う】

 「経済学・経済学説史」の方に書こうかなとも思ったのですが、コテコテの経済理論ではなかったためこちらにしました。キーワードは、「行動経済学」、「ゲームチェンジ」そして「半導体・EV・脱炭素」です。これまで、そして現況を行動経済学の様々なバイアスで説明し、それを逆手にとってゲームチェンジを促すことを提言しています。特にこれは!というの分野として半導体・EV・脱炭素を挙げています。将来を見通すなら、SDGsを取り上げて(ESGについての記載はあります)、関連産業頑張れ!になるところを、敢えて3分野に絞っているところが腹のくくりどころです。日本の得意分野を活かすため提言で、面白かったです。自分の置かれた立場は3分野じゃないかもしれませんが、様々なバイアスを乗り越えて、どう立ち振る舞えばいいかを教えてくれる本です。(2022/05/07)

○椿進(2021)『超加速経済アフリカ LEAPFROGで変わる未来のビジネス地図』東洋経済新報社
【初級。アフリカで経済面から何が起きているかを知ることができる一冊です】

 本とは全く関係ありませんが、私にはアフリカに子どもがいます。これを見た皆様は、「ははぁついにfuffuも頭がおかしくなったか(←ある意味正しいのですが)。彼女すらいないのに」と思ったかもしれません。まぁ正解です。血のつながった子どもではなく、PLANインターナショナルによる途上国支援による子どもです。どこの子どもも可愛いものです。毎日写真を見ています。
 さて、本書はLEAPFROG(カエルのひとっ飛び)のタイトル通り、日本ではがんじがらめ規制や既得権益があってできないことが、アフリカビジネスとして展開されています。本書の大部分が実際にアフリカで起きていることを説明しています。そして中国の存在感が高いということも。質が高いけど価格が高い日本製品はウェルカムではないようです。
 でも、と本書は問いかけます。アフリカの発展の過程は、これまで日本がたどってきた発展を追ってくるもの。ビジネスチャンスは日本にもあるということです。
 最後のフロンティアと言われますが、アフリカの時代が来そうです。(2022/3/14)

○加谷珪一・髙橋洋一・熊野英生・須田慎一郎(2023)『日銀利上げの衝撃』宝島社
【初級。マクロ経済学の金融政策と財政政策を理解しているとスムーズに読める】

 アベノミクスの3本の矢ってなんだったけ?結局、大胆な金融緩和しかなかった感があります。まぁそれでもいいかと10年近く金融緩和は続けられてきましたが、この書評を書いている20230515時点ではどうやら政治の世界で疑問符が出てきているようです。
 本書は共著のような思わせぶりですが、4人が独立して日銀による金融政策について(時に財政政策とセットで)あれこれ主張しています。
 そもそも現在のような金利がつかない世界がいいのか?それとも金利がプラスであるのが当たり前で現在の金融政策が誤っているのか?4者4様で語っています。金融緩和を継続して、財政政策をもっと拡大すべきとする主張もあります。
 それぞれの主張はそれぞれうなずけるものがあります。もちろん私には私の考えがあるのですが。アベノミクスの振り返りと今後の金融政策について考える、金融政策にあまり精通していなくても分かりやすいように説明している、本です。2023年中に読んでおきたい本です。(2023/5/15)

○デロイトトーマツグループ(2023)『価値循環が日本を動かす』日経BP
【初級。これまでの日本を教訓とするか、ダメだと切り捨てるか。発想の転換が必要です】
 帯には「「失われた30年」を「始まりの30年」に」とあります。いい意味で「課題先進国ニッポン」の課題を解消することを目指すため、これまで「失われた30年」を「始まりの30年」と捉えて議論を展開しています。
 本書によると、現在の日本の停滞は人口減少による「先行き不安」であるとしています。人口の増減とGDPとの間には関係性がないことを明らかにして課題をどう解決するかいくつか政策提言をしています。
 そもそも需要っていつも同じ内容でしょうか?これまではモノがたくさんあればそこそこ幸せを感じたと思いますが、今はサービスや精神的な安定といったことも需要があります。環境問題解決や過疎化でも地域を維持できる状況も求められるでしょう。今は隠れている需要を掘り起こして、その課題を解決することで日本、ひいては世界のこれから日本を追ってくる人口減少予備国への先進事例(そこに日本企業が進出する)になりうるかもしれません。
 最終章の第6章では、ちょっとだけウェルビーイングが求められていると述べています。ウェルビーイングという需要を満たす社会サービスが求められていると言ってもいいでしょう。
 本書は行政や企業でも今後の見通しを立てたい方に読んでもらいたい本です。(2023/05/21)

○河村小百合(2023)『日本銀行 我が国に迫る危機』講談社現代新書
【初級:経済学用語はほぼない。現時点の日銀のヤバさが分かる本・・・かな?】
 本書は「信用乗数」以外に経済学用語が出てきません。なので経済学用語を使えばすぐに説明できることを言葉と図表で解説しています。
 基本的には、現在の日本銀行の金融政策、特にリフレ派に対する批判を展開しています。リフレ派は財政ファイナンス(国債の中央銀行引き受け)で2%のインフレの実現と経済好転ができるとしていますが、本書は適切な財政・金融政策は有効としつつも、現状は国債の過剰発行と日銀引き受けで・・・
1.そもそも金融緩和が景気浮揚となっていない→金融期間の日銀当座預金が積み上がっただけ
2.2%のインフレを実現できなかった。現状のインフレはコストプッシュによるもの。
3.今後インフレが生じたときは止めることができないインフレになる可能性がある。
4.日銀が引き受けた国債があまりに多くて、金融正常化が日銀のバランスシートを毀損する。
5.金融正常化すると政府の国債の利子返済額が巨額になりデフォルトを避けるため社会福祉などの一般会計による政策経費の削減を迫られる。 などなど。他にもあるよ。
 といったことを主張しています。
 そもそもアベノミクスが始まった時点で十分に金利が低く、流動性の罠(利子率を下げても金融政策が効かない状況)だったと考えられ、時代の流れに沿った内容の財政政策をするしかなかったと思います。しかしながらアベノミクスの3本の矢の財政に関する部分はバラマキで終わり残ったのは国の借金だけという状況です。
 最終章で国民の意識改革が必要だと述べています。すでに国の借金は取り返しのつかないところに来ており、国民的な議論が必要だとしています。そろそろ痛みを伴う財政改革が必要です。同様に地方自治体も監視しないといけないかもしれません。(2023/5/24)