○石川幹子(2025)『緑地と文化-社会的共通資本としての杜』岩波新書
【中級。そうか修士論文ってこうやって書くんだ、と思った本。今さらですが】
宇沢弘文氏が提唱した「社会的共通資本」の理論を理論的支柱とし、明治神宮外苑の樹木伐採を批判し、外苑の持つ社会的文化的性格と今後の展望について書かれています。世界各地の事例や国内の事例も併せて紹介しています。
残念ながら「社会的共通資本」の概念がマイナーなため、少々分かりづらいですが、明治神宮内苑と外苑を素材にするには適切な理論だとお考えになったのでしょう。ただ、内容が技術論が中心であり、「社会的共通資本」論の重要な核の一つである被害-汚染-財源負担にあまり触れられていないのは残念です。明治神宮外苑で起こった樹木伐採への反対の熱意は伝わりました。そういう意味で、私のこれまでの人生に足りなかったのは熱意だったかもしれないと反省したところです。
技術論的に少し難しいですが、「社会的共通資本」って?という方には参考になるんじゃないでしょうか。被害-財源論を忘れずにね。(2025/10/07)
○野田由美子(2025)『サーキュラーエコノミー』日経文庫
【初級。事例が豊富で説明も分かりやすい】
SDGsのところにするかどうかちょっと悩みました。
薩摩川内市もサーキュラーシティを目指して、サーキュラーパークを設けていますが、参考になる例がたくさん掲載されていて、参考になります。
また、サーキュラーエコノミーがいかに革新的かについて説明がなされています。少なくとも3本は論文のネタが転がっている本ですね。
日本は以前から3Rを推進してきましたが、サーキュラーエコノミーは経済体系の変革を求めるものです。本書は「エコノミー」を解説していますが、「エコノミクス」となる書籍が待たれると思いました。(2025/06/29)
○森川潤(2021)『グリーン・ジャイアント』文春新書
【初級。2021年時点の脱炭素ビジネスの状況が分かる】
経済学的な背景はありませんが、脱炭素ビジネスの世界的な潮流が分かる本です。
タイトルにある「グリーン・ジャイアント」とは「新たにエネルギー業界の盟主へと躍り出てきた企業たち」のことを差し、再生可能エネルギー発電を主とするネクステラ・エナジーを例示しています。
このほか、自動車や原子力発電にも言及しています。
あくまで執筆時点なので、めまぐるしく変わる現在時点でゲームチェンジがあります。その原点として読むといいでしょう。そして現在の立ち位置を確認するといいと思います。
本書でも指摘されていますが、日本には規制が技術革新を阻害しているところがあり、世界をリードしきれていません。政府には現状維持ではなくイノベーションを進める環境整備を期待したいです。(2024/09/01)
○寺西俊一・石田信隆編(2018)『輝く農山村-オーストリアに学ぶ地域再生』中央経済社
【初級。オーストリアの元気な農山村の有りようは、とても参考になります】
地域再生について「FACE」をテーマとしてオーストリアの事例を詳しく優しく解説しています。
・F・・・「食」(Food)
・A・・・「農的な営み」(Agriculture)
・C・・・「文化」(Culture)、「福祉」(Care)
・E・・・「エネルギー」(Energy)、「エコロジー」(Ecology)、「教育」(Education)
オーストリアの皆さんは、農山村の営みを健全なものとして尊敬しているそうです。このことが比較的充実した農山村支援を可能にしていることが分かります。
とある村長は、「この村を、生きる価値のある農村にしたいのです」と言うお言葉!しびれますね。まるで「SDGs」や「Well-being」なんてずっと前から追求してきたんだって聞こえます。
合併してしまった薩摩川内市は、旧小学校区ごとに地区コミュニティが存在しますが、それがオーストリアの町村に匹敵します。もちろん元気な地区コミもありますが、100人にも満たない地区コミもあります。風力発電を作って、その事業を株式会社にしちゃった地区コミもあります。制度的にはオーストリアと違うところが多いので、そのまま日本に適応できないと本書でもお断りがありますが、地域再生に取り組む事業内容と地域・グループへのプライドはとても参考になると思います。本書を片手に行政に物申してもいいのではないでしょうか。(2022/08/18)








