交通問題

○宇都宮浄人・柴山多佳児(2024)『持続可能な交通まちづくり-欧州の実践に学ぶ』ちくま新書
【中級。欧州の交通計画の概要を解説している】
 交通問題で最大のものは自動車による殺人という名の業務上過失致死と死亡に至らない傷害であることは言を待たないと思いますが、本書では持続可能性について「ヒト」が安心して道路を通行することではなく、二酸化炭素を取り上げているのはちょっとがっかりです。まぁ、自動車による殺人・傷害について問題意識はある記述は見られるのですが。
 本書では、国内と欧州の公共交通機関の現状を見た上で、欧州の交通まちづくりのプログラムを説明しています。交通計画とまちづくりは不可分な関係ですよね。自動車に依存し、スプロール化した街は、交通弱者の生活を直撃します。
 欧州のプログラムが直接日本に適用できるとは言い切れませんが、参考になると思います。
 あと1点、財源論への言及が少なかったのががっかりポイントです。日本のガソリンは先進国で見ても安い方です。石油関連税で公共交通機関の充足、まちづくりへの活用が求められていると思います。(2025/03/05)

○市川嘉一(2023)『交通崩壊』新潮新書
【初級。広い意味での「交通」の現状と海外事例を紹介している】
 移動の自由って保障されているですよね。でも現在の日本は、公共交通機関は独立採算、歩道は危険だらけ。日本の道路にゴミが落ちていないことを自慢するYouTubeはいっぱいありますが、移動の自由がないがしろにされていることについての批判は広まっていません。横断歩道橋なんて人権侵害の象徴です。
 おっと本書にないことを書いてしまいました。本書は政策提言をしていません。鉄道、路面電車、自動車産業、歩道について海外と比べてひどい状況が書かれています。公共交通機関については財源の確保を訴えています。移動の自由、良好な環境の維持のための財源論は必要だと思いました。繰り返しになりますが、本書は日本の現状が異常であることを述べている本です。現状認識をするのにいい本だと思いました。(2024/09/08)

○宇沢弘文(1974)『自動車の社会的費用』岩波新書
【中級。普通に素直に読んでいくといい。完全な理解にはミクロ経済学の理解が必要】
 世界的に著名な筆者が、戦う経済学者として国(当時の建設省と運輸省)と自動車会社とを相手にマジでケンカを売った一冊です。下記はすっごくはしょった説明です。
 前半は、歩行者にこそ基本的人権があり、自動車天国である日本が突出して異常であること(主に基本的人権として安全に歩ける道路の確保、交通事故、環境汚染、ついでに道路混雑)をトウトウと説明します。ここで、「いや、自動車を運転する人も高い税金払っているよ」と思った人は基本的人権について考え直す必要があるでしょう。例えば立体歩道橋ほど人権軽視であると説明しています。なにゆえに街中を歩くのに自動車様優先にする必要があろうか。道路の方が下を通ればいいのである。私もそう思います。
 後半は、自動車がどれだけ社会的費用を負担していないかを説明しています。他の著書でもそうですが、筆者の特徴は、徹底した新古典派経済学(ミクロ経済学と同じと思っていいです)批判です。本書でも新古典派経済学批判があります。例えば交通死亡事故を取り上げるとその損失は、稼得能力で算定されます。簡単に言えば所得が高い人が交通事故に遭えばその損失は比較的大きく、逆に所得が低い人が交通事故に合えばその損失は比較的小さくなります。
 そうじゃないよね。っていうことで基本的人権を損なわない道路整備をする場合、どの程度の費用がかかるのかという方法で社会的費用を算出しています。当時の金額で1台2100万円との計算結果とのことでした。本書が出版された年の大卒初任給が78,700円で、2019年の大卒初任給は210,200円と2.7倍になったので、ざっくり現在価値にすると1台あたり5,670万円になりますね。かなり乱暴な数字ですが。
 筆者が執筆した時点では、高齢者も交通弱者として挙げられていました。昨今では当時ドライバーだった方(簡単に言えば現在の高齢ドライバー)による交通事故がクローズアップされていますね。飲酒運転も。本書を読んで、改めて基本的人権に基づく街作りや制度設計の必要性を感じました。(2021/12/13)