SDGs・ESG・well-being

○大塚直・諸富徹共編(2022)『持続可能性とWell-Being』日本評論社
【上級。法・経済・自然の専門家による共著。各分野で先進的な試みがなされている】

 共編の書物は章ごとに各分野の先端考察がなされており、難しくなる傾向がありますが、本書も多分に漏れず通読するのは難しいですが、環境問題とwell-beingとを理解しようとすると学際的になるのも使用がありません。
 本書ではwell-beingについて章ごとに若干意味合いが異なっていますが、これはwell-beingの概念の統一的な解釈が定まっていないためのことなので、章ごとにwell-beingの定義を見て読むといいでしょう。
 私はあまり法的な理解はないので、法律解釈は大変難しく感じました。同じような議論がSDGsにもあるか気になりました。
 本書は、現世代と将来世代との衡平がひとつのテーマとなっています。両者の包摂的な理解はとても参考になりました。
 第3部編の実証分析もデータを丁寧に扱い、その限界も明らかにされています。より深く理解したい方にはいい本だと思いました。(2024/08/25)

○前野隆司・前野マドカ(2022)『ウェルビーイング』日経文庫
【中級。現時点でのウェルビーイングとして、理論・実証ともに充実しています】

 この本は、「ウェルビーイング」という「沼の深さ」を教えてくれます。ウェルビーイング研究の先駆者として、理論はもちろん経営やまちづくりといった点も掘り下げています。通常新書・文庫は要約するとノート見開き2ページにまとまるんですが、本書はまとまりませんでした。それほど内容が充実しているんですが、経済学に焦点を当てると・・・?関連箇所は3カ所で行動経済学について、幸福と年間収入の相関は75,000ドルで頭打ちになることとナッジ。そしてアダムスミスが「個人が、あるいは国が、それぞれ自分の成長だけを目指して勝手に行動すれば、市場原理によって全体としての成長につながる」と唱えたとする点だけです。果たしてアダムスミスは本当にそう考えていたでしょうか?この発想では、国富論の「分業」が説明できません。ウェルビーイングと経済学の関係については、もう少し経済学者の努力が必要なのかもしれません。
 あっ、それからウェルビーイングサークルという一種健康診断的なHPが紹介されています。登録が必要ですが、利用料は不要です。自分がおかれている状況がウェルビーイングからみてどうかを測ってみてはいかがでしょうか?→https://well-being-circle.com/(2022/05/26)

○松下耕三(2022)『よりよく生きるとはなにか?』クロスメディアパブリッシング
【初級。就活中に読むといいかもしれないが、過度な信奉は禁物】

 この本のタイトルを見てピンと来ましたね。「これはwell-beingだ」と。そしてそのワードは早速「まえがき」に登場します。やはりな!と思い最後まで読むと・・・well-beingが出てくるのは一カ所。つまり「まえがき」のみです。それ以降は「よりよく生きる」がキーワードとなって出てきます。
 本書を読むと「経済騎士道」という言葉を思い浮かべました。簡単に言うと、市場の参加者は、資本の論理に惑わされず正義感を持って生き、消費行動、生産行動を行うことです。それを現代語訳しているように思いました(ある意味マルクス的な考えがありそうです。違ったらごめん)。
 資本主義社会にちょっとした警戒感を述べています。それはそれで正しいかもしれません。でも人間って、そこまで愚かかなぁ~とも思いました。
 社会人なら気楽に読める本だと思います。ちょいと心に刺さることが書いてあるかもしれませんが、心に留めておいていいかもです。(2022/05/22)

○蟹江憲史(2020)『SDGs(持続可能な開発目標)』中公新書
【中級。SDGsの教科書的な位置づけ。いい本です】

 日本におけるSDGsの先駆者による著書です。新書ながら1ページの文字が多くて、ちょいと目がくらんでしまいましたが、いい本です。基本的な概念やSDGs成立までの簡単な歴史・経緯、各目標の概略、各主体に関する記述がまとまっており、第一印象が「なんか教科書みたい」でした。ちょうど新型コロナウイルスの禍の最中で、コロナ関連に関する記述が多いのが気になります。もう少し簡単な例があれば良かったのですが、紙幅上しょうがないでしょう。面白かったので、ややボリュームが多い本でしたがスムーズに読めました。いつか再読したいと思わせてくれる一冊です。下の村上・渡辺(2019)を読んでからチャレンジするといいと思います。(2022/05/05)

○渋澤健(2020)『SDGs投資 資産運用しながら社会貢献』朝日新書
【中級。ん?初級にしてもいいかも・・・な感じ。よく読みましょう。】

 SDGsを持ち出すと必ず近江商人の三方よしが出てきます。そしてSDGsになると「そこまでやるのか!」ってなるということは、三方よしが時代遅れなのか、三方よしの現代意義を誤認しているかなんでしょうね。本書は、渋沢栄一の『論語と算盤』を引き合いに出して、その現代意義とSDGsを読み解きます。三方よしと同じで『論語と算盤』も現代意義を問う必要がありそうです。
 本書は具体的なSDGs投資については語りません。最後にインパクト投資とそれを促すエコシステムの必要性を問うています。そのインパクト投資に「共感・共助・共創」があるのかについて、少々長く説明しています。
 ダイレクトなSDGsは語りませんが、「こんな感じ」をまとめたものだと感じました。まぁ、SDGsの原則と『論語と算盤』との関係も示されているので、企業トップの方には何かしらの指針にはなりそうです。(2022/04/24)

○日能研編(2017)
『SDGs(国連世界の未来を変えるための17の目標)2030年までのゴール』みくに出版
【初級。小学生高学年向けの本です。お子様にどうぞ。中学試験対策にもどうぞ。】

 この本の漢字のおおむね半分程度にふりがなが振ってあります。んが、侮るなかれ。SDGsの成り立ちから始まり、各ゴールとその意味するところを解説・考えさせる内容となり、終わりに中学入試とSDGsと私学でのSDGsの取組みを紹介しています。さすが日能研。
 とりあえず17の目標を簡潔に、そして小学生にも分かりやすい解説を見てみたいのならば、本書は良書だと思います。何を隠そう私がSDGsのとっかかりに選んだのは本書です。教育の現場がどうなっているかを知るためにもいいかもです。(2022/2/11)

○石川善樹(2020)『フルライフ』ニューズピックス
【中級。読者を選ぶ本です。大きな夢を実現するための「時間」のあり方を問う。重心て何さ?】

 筆者の石川さんは、予防医学研究者となっていますが、広い分野に興味があるようです。
 さて、経済学ではないこの本を手にした理由は、ポストSDGsと目されているWell-Beingって何?という疑問から、とある雑誌で紹介されていた筆者の著作を読んでみようと思ったのです。
 結論から言えば、本書ではポストSDGsとしてのWell-Beingを読み解くことはできませんでした。(もちろんヒントとなる文脈はありました。勘違いでないことを祈る)
 読む価値なしかと思った方・・・答えはNoです。この短期間(3日間)で5往復しました。
 タイトルこそ「フルライフ」となっていますが、フルライフは「Well-Doing」と「Well-Being」との関数(和ではないようです。なぜなら表紙に、Well-Being × Well-Doingと書かれています)であり、話題の中心はこの「Well-Doing」と「Well-Being」です。
 イカン。長くなる。
 最初の最初にこうあります。
 「この本のコンセプトは、「時間の使い方に戦略を持つことで、フルライフ(充実した人生)を実現する」というものです。」
 「コンセプト」なんて簡単に書いていますが、本文中にコンセプトを定義しています。ほら難しいでしょ?筆者は、意識して時間を「仕事の時間(Doing)」と「仕事以外の時間(Being)」に分けて(あえて単純化して)、前半(2章~4章)ではDoingをより高いWell-Doingに持っていくことについて発想を展開しています。そして5章でWell-Beingについて説明しています。
 筆者もWell-Doingに結構紙面を使ったと説明していますが、1章で職場におけるWell-Beingの重心について、それは信頼の文化って言っちゃってます。そう私にはWell-Doingを展開している2章~4章でもWell-Beingが顔を覗かせているように感じます。
 最後にWell-Beingですが、道元禅師の「自己をならふというは、自己をわするるなり」を持ってきて、自己中心性から離れることだとしています。結果、「フルライフとは、自分を高めるWell-Doingと、自分を忘れるWell-Beingのバランスをとることである」と結んでいます。
 んが!道元禅師の言葉には続きがあって、それは「自己をわするるというは、万法に証せらるるなり」で、要は(ネットによると:私の実家は神道なので仏教には疎いのです)「森羅万象全てのものに支えられて生きさせていただくので、自分一人の力ではない」=自己への執着心から脱し、無心に他のために尽くす自己を習い続ける、らしい。私にはこの続きの部分は、本書の「視点の高さ」→「人間として自己を観ること」ではなかろうかと思えるのです。本書の「視点の高さ」は、「事業・企業・産業」を俯瞰し、そこから創造性を発揮するビジネスパーソンに必要なものと説明されているため、結果私には「仕事の時間」も「仕事以外の時間」も「視点の高さ」が必要だという結論になりました。まっ、この結論は2、3日でたった1冊の本を読んで出した結論なので、そんな大層な含蓄はありませんけどね。
 あっ、1点訂正です。上記に「経済学ではないこの本」と書きましたが、本文中結構経済学者が出てきます。行動経済学、神経経済学。今流行の。(やっぱり長くなってしまった。いやまだ足りない)なお、本書はネットでも読めます。このページを開きアカウント登録することで読めます。ですが、私がそうでしたが、何往復して章を飛び越えて読み返すので、本書を購入することをお勧めします。(2021/11/29)

○村上芽・渡辺珠子(2019)『SDGs入門』日経文庫
【初級。最初の取りかかりと作業の途中に読み返してよい本。分かりやすく、丁寧】

 SDGsというと、日本ではなぜか環境問題と結びつけて語られていますが、目標1は「貧困を終わらせる」ですからね。日本国内でも貧困問題はあります。決して見捨てないようお願いします。
 さて、この本は、この書評を書く時点で私の書棚(自称)にあるSDGsを解説する本としては、とびっきり簡単で、無駄なく、基礎から具体例を記載している隙の無い本です。
 確かに途中にESGだの、ISOだの、MDGsだの、CSRだの横文字が出てきますが、なんとなく雰囲気で乗り切れます。
 SDGsの思考法の最大の特徴は、バックキャスティング(下記注参照)なんですが、簡単に言えば、目標(ゴール)を立て、それをどのように達成していくかを考えるというものです。そしてまたその過程で、良いインパクト悪いインパクトを考えるということになります(太陽光パネルを崖地に設置して崖崩れが発生しやすくなったのでは元も子もありませんね。あっ、この例は私の考えです)。
 本書の前半はSDGsの成り立ちやその意味、バックキャスティングでの目標の立て方から自社事、自分事としてどう構想するかについて記載してあります。
 後半は、いくつかのテーマについてターゲットを横断的に絡ませながら事業を組み立てる例を示しています。
 本書は冒頭にもあるようにとても読みやすい本です。「SDGsって何かな?」と思ったら手にしてみるといいでしょう。まずは自分事として考えてみてはいかがでしょうか?(2021/11/6)

 注:バックキャスティングの反対は、フォアキャスティングなんですが、フォアキャスティングは、数値を積み重ねた結果として目標(ゴール)を立てるものです。バックキャスティングの方が野心的で、突飛な?(ある意味現実的な)目標になる傾向にあります。少なくとも46%などというちゃちぃ目標は立てません。
 例:バックキャスティング・・・CO2を2030年までに50%排出削減する。そのために火力発電所○○%削減、原子力発電増加、交通機関××%削減・・みたいな。
 一方フォアキャスティング・・・火力発電所○○%削減、原子力発電増加、交通機関××%削減・・することで、CO2を2030年までに46%排出削減する・・みたいな。(2021/11/13追記)

○西岡満代(2023)『未来をつくるパーパス都市経営』日経BP
【上級。まず役所の情報処理担当に読んでもらいたい本】
 カンタンに言うと行政の皆さんシステム構築はNECへってか(^_^)
 まちのwell-beingの向上のために、ビッグデータの活用の必要性を訴える本です。前半こそwell-beingへの言及がありますが、後半はガッツリシステム構築に重心があります。なので情報処理担当が読み、各施策担当がうまく業務が回るよう導くのが望ましいかな。いくつかうまくいっている例示もあるので、参考になるでしょう。
 パーパスについては、民間企業で「パーパス経営」という言葉があるので、これを行政に落とし込んだだけです。行政職員は、まちの満足度の向上を図るために仕事をしているのは当然ですが、本書では「選択と集中」を求めています。これは首長判断事案ですね。思い切りが必要です。
 「ヒト・モノ・カネ」のうち、「カネ」については、「歳入」で処理していますが、国レベルで考えてみましょう。財政とGDPとどちらが優先されるでしょうか?GDPあっての財政ですね。これは市町村レベルも同じです。「カネ」は「歳入」よりも市町村内のGDPと言える付加価値の方が重要です。これはダイレクトにwell-beingに反映します。私見ですが。
 本書では、防災についても言及していますが、各測定所がネットワークでつながっていることが前提となります。災害時にネットワークが遮断したり、破損するという想定はどうするのでしょうか?移動体通信も都会ならいざ知らず、薩摩川内市は、3G回線すら通じていないところもあります。そんなところに限って異常を測定する必要がありそうです。
 とすれば、電力は大型集中発電所ではなく、地産地消型の電力確保が求められるのだろうか?そして緩やかにそして幅広く接続する必要がありそうです。私見ですが(原子力発電所は不要ですかね?)。
 well-beingの向上のために、本書では「EBPM(証拠に基づく政策立案)」を推奨しています。コストベネフィット分析と何が異なるのでしょうか?形を変えて登場したように感じ。むしろ予算削減の言い訳に使われそうな気がします。
 パーパスは、市町村ごとに異なるのは本書の指摘通りです。パーパスを軸に据えて、well-being向上のために市民や企業その他の関係者を巻き込む、今までなかったものではありません。この点についてはより深化が必要かもしれませんね。
 ビッグデータを活用した政策は、緒に就いたばかりです。本書はその先駆けと考えていいでしょう。ツッコミどころは多々ありますが、そこは皆で乗り越えるところですね。(2023/4/30)

○鶴見哲也・藤井秀道・馬奈木俊介(2021)『幸福の測定』中央経済社
【初級。ウェルビーイングを「幸福」と定義しています。直感に頼っていい本です】
 いくつかの解釈がありますが、本書でwell-beingは「幸福」と定義しています。そして日本人30万人を対象とした調査と幸福先進国であるフィンランドとを比較しています。
 どちらかと言えば幸福が主菜で、well-beingが副菜な感じがしました。
 幸福は人それぞれとしながら調査で傾向を見ており、お金と幸福といったテーマに合わせて調査結果をまとめています。
 通常この手の調査の結果、どのような政策が望ましいかを提言するものが多いのですが、本書はあくまで調査結果に重きを置いており、具体的な政策にはあまり触れていません。幸せは人それぞれ。自分だったらどんな政策が望ましいか考えながら読むといいと思いました。
 もちろん調査結果と自分が想像した結果を比べて驚きがあるか、想像を肯定するかという点を考えながら読むのもいいと思います。
 調査対象が30万人ということで、読み応えがある本だと思います。(2023/5/13)