○ウィリアム・ノードハウス著 江口泰子訳(2023)『グリーン経済学』みすず書房
【初級。環境の経済学を学ぼうと思って割と早いうちに読んでおくとよい】
環境の経済学に関連してノーベル経済学賞を受賞した著者による著書。ミクロ経済学で外部経済のことを理解した上で読むとよいでしょう。
タイトルに「経済学」とついていますが、面倒な数式は出てこず、現在では専門化が進んでいる環境問題の諸課題をさらっと叙述しています。なので、本書を読んでより極めたいと思ったらその箇所を読み込んで、専門書を読むためのものと考えてください。
本書は「経済学」となっていますが、政治や倫理、思想についても触れています。私なら「政治経済学」というタイトルにしたと思います。まぁ、著者が経済学って言っているのでいいのでしょうが。(2025/01/30)
○池田信夫(2024)『脱炭素化は地球を救うか』新潮新書
【初級。でも読む価値はありません】
たまには反環境保護主義者の本を読んで脳みそをブラッシュアップしようと思い購入した本です。批判覚悟と自身も述べているのですが、徹頭徹尾ナンセンスな論調が続きます。そもそもこれまで人類が経験してきた環境問題の性質に無理解です。ただ第6章の「電力自由化の失敗」だけはまともでした。ただし、私が電力会社の社員で御用学者として著者を選ぶことはないでしょう。そのぐらい環境保護主義者の意見に対抗できない内容です。脳みそをブラッシュアップするつもりでしたが、反論すら無駄だと思いました。(2024/10/09)
○市川嘉一(2023)『交通崩壊』新潮新書
【初級。広い意味での「交通」の現状と海外事例を紹介している】
移動の自由って保障されているですよね。でも現在の日本は、公共交通機関は独立採算、歩道は危険だらけ。日本の道路にゴミが落ちていないことを自慢するYouTubeはいっぱいありますが、移動の自由がないがしろにされていることについての批判は広まっていません。横断歩道橋なんて人権侵害の象徴です。
おっと本書にないことを書いてしまいました。本書は政策提言をしていません。鉄道、路面電車、自動車産業、歩道について海外と比べてひどい状況が書かれています。公共交通機関については財源の確保を訴えています。移動の自由、良好な環境の維持のための財源論は必要だと思いました。繰り返しになりますが、本書は日本の現状が異常であることを述べている本です。現状認識をするのにいい本だと思いました。(2024/09/08)
○森川潤(2021)『グリーン・ジャイアント』文春新書
【初級。2021年時点の脱炭素ビジネスの状況が分かる】
経済学的な背景はありませんが、脱炭素ビジネスの世界的な潮流が分かる本です。
タイトルにある「グリーン・ジャイアント」とは「新たにエネルギー業界の盟主へと躍り出てきた企業たち」のことを差し、再生可能エネルギー発電を主とするネクステラ・エナジーを例示しています。
このほか、自動車や原子力発電にも言及しています。
あくまで執筆時点なので、めまぐるしく変わる現在時点でゲームチェンジがあります。その原点として読むといいでしょう。そして現在の立ち位置を確認するといいと思います。
本書でも指摘されていますが、日本には規制が技術革新を阻害しているところがあり、世界をリードしきれていません。政府には現状維持ではなくイノベーションを進める環境整備を期待したいです。(2024/09/01)
○大沼あゆみ・柘植隆宏(2021)『環境経済学の第一歩』有斐閣ストゥディア
【初級。主流派経済学のテキストで読みやすい】
主流派経済学の分析手法について解説していますが、必要最低限のミクロ経済学も説明されているので、環境経済学を学ぶ前に手にしていい本だと思いました。本書では、環境問題は経済問題であるということから始まります。まぁ、これにはいろいろご意見あるでしょうが。ここで言う「環境」は「自然環境」とも言い換えられています。ここは注意点です。
環境問題について、経済学の手法について説明していますが、どうでしょうか?水俣病は解決した環境問題でしょうか?解決していないと思う方は、さらに環境経済学もしくは環境経済論について研究してみるといいでしょう。(2024/04/07)
○寺西俊一・石田信隆編(2018)『輝く農山村-オーストリアに学ぶ地域再生』中央経済社
【初級。オーストリアの元気な農山村の有りようは、とても参考になります】
地域再生について「FACE」をテーマとしてオーストリアの事例を詳しく優しく解説しています。
・F・・・「食」(Food)
・A・・・「農的な営み」(Agriculture)
・C・・・「文化」(Culture)、「福祉」(Care)
・E・・・「エネルギー」(Energy)、「エコロジー」(Ecology)、「教育」(Education)
オーストリアの皆さんは、農山村の営みを健全なものとして尊敬しているそうです。このことが比較的充実した農山村支援を可能にしていることが分かります。
とある村長は、「この村を、生きる価値のある農村にしたいのです」と言うお言葉!しびれますね。まるで「SDGs」や「Well-being」なんてずっと前から追求してきたんだって聞こえます。
合併してしまった薩摩川内市は、旧小学校区ごとに地区コミュニティが存在しますが、それがオーストリアの町村に匹敵します。もちろん元気な地区コミもありますが、100人にも満たない地区コミもあります。風力発電を作って、その事業を株式会社にしちゃった地区コミもあります。制度的にはオーストリアと違うところが多いので、そのまま日本に適応できないと本書でもお断りがありますが、地域再生に取り組む事業内容と地域・グループへのプライドはとても参考になると思います。本書を片手に行政に物申してもいいのではないでしょうか。(2022/08/18)
○宇沢弘文(1974)『自動車の社会的費用』岩波新書
【中級。普通に素直に読んでいくといい。完全な理解にはミクロ経済学の理解が必要】
世界的に著名な筆者が、戦う経済学者として国(当時の建設省と運輸省)と自動車会社とを相手にマジでケンカを売った一冊です。下記はすっごくはしょった説明です。
前半は、歩行者にこそ基本的人権があり、自動車天国である日本が突出して異常であること(主に基本的人権として安全に歩ける道路の確保、交通事故、環境汚染、ついでに道路混雑)をトウトウと説明します。ここで、「いや、自動車を運転する人も高い税金払っているよ」と思った人は基本的人権について考え直す必要があるでしょう。例えば立体歩道橋ほど人権軽視であると説明しています。なにゆえに街中を歩くのに自動車様優先にする必要があろうか。道路の方が下を通ればいいのである。私もそう思います。
後半は、自動車がどれだけ社会的費用を負担していないかを説明しています。他の著書でもそうですが、筆者の特徴は、徹底した新古典派経済学(ミクロ経済学と同じと思っていいです)批判です。本書でも新古典派経済学批判があります。例えば交通死亡事故を取り上げるとその損失は、稼得能力で算定されます。簡単に言えば所得が高い人が交通事故に遭えばその損失は比較的大きく、逆に所得が低い人が交通事故に合えばその損失は比較的小さくなります。
そうじゃないよね。っていうことで基本的人権を損なわない道路整備をする場合、どの程度の費用がかかるのかという方法で社会的費用を算出しています。当時の金額で1台2100万円との計算結果とのことでした。本書が出版された年の大卒初任給が78,700円で、2019年の大卒初任給は210,200円と2.7倍になったので、ざっくり現在価値にすると1台あたり5,670万円になりますね。かなり乱暴な数字ですが。
筆者が執筆した時点では、高齢者も交通弱者として挙げられていました。昨今では当時ドライバーだった方(簡単に言えば現在の高齢ドライバー)による交通事故がクローズアップされていますね。飲酒運転も。本書を読んで、改めて基本的人権に基づく街作りや制度設計の必要性を感じました。(2021/12/13)