はじめに

 何というか、問題提起みたいなのは必要ですよね。ちょっと長いですが。

○金融審議会市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」2019年6月3日
【初級。多少の金融商品の知識が必要ですが、分かりやすい内容です。】

 「書評」と言いながら、本ではありません。すいません。ファイナンシャル・プランナー(FP)としては、放置できない報告書ですので取り上げてみました。

 この報告書を端的に言うと「その業界の方々がよってたかって、いかにして金融商品を買わせるかについてまとめてみました」な、感じです。あっ、上のリンク先に報告書がありますので、お暇な時にどうぞ(全部で51ページあります)。

 老後2,000万円問題について見聞きしたことがあるでしょうか?その発端がこの報告書です。年金だけじゃ足りないよっていう、厚生労働省(オブザーバー参加)と日本年金機構を相手に金融庁がケンカを売ったようなもんです。
 そもそも現在の高齢者は2,000万円をどうしているの?ってことですが、一部のやむを得ず低所得になった方を除けば、それなりの貯蓄があり、相応の退職金があってそれを取り崩すことで成り立っているとのことです。

 これに対して、この報告書は、日本の総人口の減少(+高年齢化)と年齢構成の変化、高齢者を取り巻く環境変化(年金・医療・介護・認知機能・空き家対策等)により社会経済システムの変化に適応する金融商品・金融サービスの個々人の取組み及びサービス提供者の責務について検討したんだよ。関係者の皆さん、これを契機に自分事として取り組んでね、ってことが最初の1ページ目に書かれています。

 では、どう計算して2,000万円になったかというと、夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの世帯で、ともに無職という前提で、家計収支統計から求めると毎月の収支は約5万円のマイナスとなり、残り30年間夫婦ともにご健在だと約2,000万円不足するってことです。まぁ夫婦で月65,000円も食費を使うの?とかいうツッコミもできますが。。。

 じゃあ何が問題かと言えば・・・今後は・・・
・喜ばしいことではあるが、より長生きするようになる。100年人生。
・認知機能の低下は、年を重ねるごとに避けられない。
・退職金は減少傾向にある、もしくはそもそも退職金がない場合がある。
・年金はマクロ経済スライドで増える・・・のか?(いや、むしろ・・・)
・昭和から平成にかけ金利が低く預貯金が少ない世帯が増えていく。
・この収支には、老人ホーム等の介護費用や住宅リフォーム費が考慮されていない。
 ってな感じで、収支をマイナスに持っていく要因があるということですね。

 もちろんこれに対して・・・
・健康寿命を延ばして、病気や介護が必要となる期間を短くする。
・65歳以降も労働する。確かに政策的に65歳以降の労働を促進している。って言うか、即戦力。
・年金の受給開始時期を後ろ倒しして、毎月の受給額を増やす。
・毎月コツコツ預貯金する。
 ってな方法で、収支をできるだけプラスにすることができます。

 でもねって、この報告書は言うんです。すなわち、実りある老後を過ごすためにはお金が必要だよね。だってこれからは、型にはまった人生ではなく、個々人のライフスタイルに合わせた暮らしが求められているから。と。
 そのためには適切な金融サービスを活用すべきであるとしています。

 良心的(?)に言えば、
・個々人は、自分のライフスタイルを見つめ直し、金融リテラシーの向上を図る。年金を含め。
・金融サービス業は、短期的な手数料目的ではなく、顧客のライフスタイルを尊重したサービスの提供をすべき(←こいつが一番難しい。FPの私は信頼してもらえるかしら?フフフ)。
・制度設計について、たとえば積み立てNISAの期間を無期限にする等の仕組みづくり。とか。
 を提案してます。本当はもっと細かく書いてあるんですが、概ねこんな感じです。

 内容については、ざっくりですが、上記のとおりです。

 退職金がまだそれなりに確保できて、それなりに年金をもらえる現時点の高齢者はまだいいでしょう。現時点(2021年度)の40代以下は、厳しい状況に追い込まれそうです。
 そもそも毎月5万円のマイナスになるかどうかについては疑問が残るんですけど、どこまで生きるか分からない時代ですからね。

 魑魅魍魎の渦巻く金融業界に、丸腰で突撃するのは無謀ってもんです。小学校~高校では金融教育が始まっていますが、狭間の世代には厳しい世界が待っています。失敗すると金融機関の餌食になる可能性もあります。
 できることは、金融機関の手数料ビジネスに巻き込まれる前に少しでも早い時点から(いや今から)、金融リテラシーの向上努力や信頼のできる金融機関やFPに巡り合うことでしょうか。

 私もまんまとこの報告書に取り込まれてしまいました。それなりに勉強して、やりくりはしていますが・・・。それなりにお金って必要だよねって言われると否定できませんね。今回は長くなりましたが、以上です。(2021/10/4)